では「8:2の法則」はマネジメントに活用できるのか。曰く、ビジネスにおいて売上の8割は全顧客の2割が生み出しているから、売上を伸ばすには全顧客にではなく、上位2割の顧客に的を絞った方が効率的である。曰く、故障の8割は全部品の2割に原因がある。曰く、プログラムの処理にかかる時間の8割はコード全体の2割が占める、などと言われるが、これは活用というほどのものではなかろう。そう言われてなるほどネとつぶやくくらいで宜しい。商品の売上の8割は全商品2割で生み出すが、しからば売れない8割に目をつけてこれを売る仕組みを作り出せないか、と考えたジェフ・ベゾスのロングテール戦略なら、少しは気が利いているけどね。
ということでプロのカチョーたるもの、そこここに落ちている雨ざらしの話を拾って嬉しがっていてはならない。もし拾うなら、全体の2割が優れた設計の商品ならば、実用性が8割に達した段階で優れた能力を発揮する、といった事象だろう。あれもこれもと考えず、計画全体の2割だけの完成度を高めたら、後はその運用を8割まで完熟させて成功に導く。チーム全員を一律底上げするのではなく、2割のブカを強く動かし、そのブカを以って他のブカをそこそこに動かすようにする。ブカの全身全霊を期待するのではなく、2身2霊程度を差し出してもらい、差し出されたものだけを最大化してあげる。ブカが全部の力を出したとしても、成果の8割は2割の力によるものだというのだから、ブカが2掛け程度で働いていたら良しとすべし。ただしどこを選んで2とするかについては、注意深く見極めてブカをリードしておきたい。
とは言え、最も8:2の活用を施したいのは、カチョー自身のパフォーマンスである。自分の最大出力と思われる2割で勝負することだ。そうすれば8割方までは成果が示せる。いやいや私のような愚直な人間はそうは行きません。あと2割の成果しか加えられないとわかっていても、10割の出力で勝負をしたいのです、出来れば12割だって出したいのです、とのたまう御仁も居られよう。まあご自由にと言いたいところだが、強くお止めしたい。出力を最大にしてしまうと、これ以上ないほど鼻息が荒くなるので、周りと和していけなくなる。その上8の力で2を得ただけだから、全体性能が悪くなる。悪くなった点は直したいところだが、鼻息一杯の貴兄姉には気の毒で、誰も物申さなくなる。しかし貴兄姉をお止めしたい最大の理由は、そんなことはホントに無駄だとする法則までがあるからだ。
SFはその創生期において文学的幼稚性を指摘され非難され続けた。あるとき、SF作家シオドア・スタージョンは、現代文学のパネルディスカッションに出席して、英文学の教授からこう言われた。「SF作品の90%はcrap(うんこ)みたいなものだな」これに対してスタージョンは、「どんなものでもその90%はcrud(汚物)ですよ」と言った。普通はcrap もcrudもカスと訳されるが、辞書を当たればうんこでも良さそうだ。ともあれ、これがスタージョンの法則、もしくはスタージョンの黙示録と言われるものの一つである。最大出力の2割も出せば、もうそれで後はカス、あるいは汚物、あるいはうんこみたいなものなのである。環境保持のためにもカチョーは2割の出力で8割のパフォーマンスを得ることが肝心なのである。これを貴兄姉のために「スタージョンの汚物の法則」と名づけておいても、スタージョンからカス扱いはされないだろう。