会社にだな、100人の社員がいるとするだろう。するてえと、たいがい毎日5人ぐらいは遅刻をするとみて間違いないな。1ヶ月で遅刻が100回はあるということだ。1年なら延べて1200回。会社てえのは大変だねえ、べら棒な遅刻を背負ってやってるんだな。社員1人が1年に12回ずつ遅刻するんだからな。ところがだ、やっぱりだらしのねえ奴ってのはいるもんだ。1200の遅刻のうちの8割方は、たった20人の仕業だっていうじゃねえか。こいつらが1人で1年に48回も遅刻しているんだぜ。あとの社員は、遅刻するったって1年でたったの3回だ。こうなりゃ会社も簡単だ。この20人を叩き出しちまえばいいってこった。エッ、どこの会社のことを言ってるのかって? そんなことはいいんだよ。世の中のことの8割方は2割の奴らが引き起こしているっていう決まりがあるのを知らねえな。二八の法則っていうのよ、覚えておきな。
何だか妙にもっともらしい話だな。二八蕎麦なんてのがあるくらいだから、世の中にはそのように見えることもあるかも知れねえ。しかしまさか、そればかりとは限らねえだろうよ。世の中には、二とか八とかの間尺に入らないことが多すぎるということだな。エッ、どれが間尺に合わないか、例えを挙げてみろだと? 幾らでも挙げて見せるよ、むきになったって見っとも無えからそんなことしねえけどよ。しかしまあ、そんな押しの強いことを言い始めたのは、どこかの頭の固いオヤジだな。
左様、こんなことを言い出したオヤジがいたのは確かである。拙筆よりも100年も前に生まれたイタリア男、ヴィルフレード・パレートだ。ヴィルは、ムッソリーニのイタリアファシスト党に与力していた。彼の社会学理論がファシスト体制にピッタリしていたからだ。しかし彼は、その前は経済学者であった。社会全体に福利の適正配分をすることで資本の効用を最大化できるとする厚生経済学の、生みの親だったのである。しかし彼は、その前は数学者であった。これだけ勉学に励めば、頑固にもなるだろう。彼は数学者出身の経済学者として数理経済学を編み出し、統計分析を用いて社会における富の偏在を「80:20の法則(パレートの法則)」として明らかにした。それは、2割の高額所得者のもとに社会全体の8割の富が集中し、残りの2割の富が8割の低所得者に配分される、というものであった。
パレートの言ったことは本当であるか。本当であり、本当ではなかった。本当だったり、本当でなかったりする、ということだ。自然現象や社会現象は複雑でバラツキがあるから、「80:20」で一括りにすることはできない。しかしそれでも、経験に照らせば、ヴィル・パレートの言っていることはそこそこには頷ける。