〈万平ホテル〉から来た暑中見舞いを、机の前に貼って眺めている。落ち着いた色彩でデザインがいい。
この文字は何という書体だろう。タテヨコの太さが変わらないのに柔らかい感じだ。何となく懐かしい文字だ。
ロゴマークも、絵も、書体も、割付けも、もちろんプロの仕事だろうけれど、最後に「これでいいよね」と決めたのは誰だろう。どんな決め方をしたのだろう。
雑誌をやっている頃、毎月表紙デザインを選ばなければならなかった。正直なところ、ぼくにはどれが良いのかわからなかった。それで、表紙を貼った雑誌を書店に持ち込み、平台に密かに置いた。連れて行った学生アルバイトたちに、どれを手に取りたいかを聞いて決めたりした。
『暮らしの手帖』の編集長だった花森安治は、すべてを自分で決めた。企画も、割付けも、表紙の絵も、書き文字も、全部自分が手がけた。実験の手順を創案し、監修した。花森には審美のモノサシと腕があったのだ。
学生に選んでもらうマーケティングみたいなやり方も、やらないよりはマシだけど、花森みたいな、メッセージの塊みたいな、雑誌が作れたら良かったと思う。でも足りないから、分業で、みんなで協力して作った。
分業では、いい人を起用して、起用した人の力を精一杯引き出すことが大事だけれど、それでも最後には、これだ、と決めなければならない。それはたいていひとりの作業だ。
万平ホテルの暑中見舞いハガキのすべては、だれが決めたのだろうか。どんな決め方をしたのだろうか。
2021/8/7 NozomN
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