▶石田禮助は強い者、上に立つ者に対して、怖いものなしの男だった。国鉄総裁になり国会に呼ばれたとき、閣僚や議員たちに対して「先生」とは言わず「諸君」と言った。そして「粗にして野だが卑ではないつもりだ」と自己紹介をした。城山三郎はこの発言を手がかりに、「卑ではない」石田の生き方を丹念に拾い集めはじめる。
▶石田禮助は国鉄総裁の仕事をパブリック・サービスだと考えて報酬を返上した。タバコの葉を丸めている専売公社の職員と、国民の命を預かる国鉄マンの給料が同じではおかしいと、労組と手を組んで国会を相手取って闘った。政府からの勲一等叙勲の申し出を断った、等々。
▶そんな石田禮助の葬儀はきわめて簡素だった。代表取締役をつとめた三井物産からは三人までとするようにとの本人の意向に添ったのだった。彼自身も、冠婚葬祭にはほとんど顔を出さなかった。
▶城山は石田のような生き方がなぜ生まれたのかを追いながら、その後半生が「天国への旅券(パスポート・フォア・ヘブン)」を得るためのものだったことを知る。
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