草稿ノート草稿ノート

パウエル・ブック(幻想都市紀行12)

 Earl Thollanderの『Back Roads of Oregon』を見つけたのは、パウエル・ブック(Powell's Books)という本屋だった。
1986年のことで、ダウンタウンのBurnside通りに面する店だった。

Powell's Books

 ジャズが聴けるレストランはないかと、ガイド誌を求めてたまたま入った本屋だった。元は何かを製造していたか、倉庫だったかを改造した建物だった

 フロアがたくさんあり、どのフロアも大きすぎて、なかなか目当てのガイド誌が見つからない。さんざん探して途方に暮れていると、各フロアの隅に膝に毛布をかけて座る女性が目についた。本の案内をしている。訊ねるとレストランやライブのガイドはフリーペーパーで、店の外にあると言っているらしい。よくわからないでいると、店の外まで連れて行ってくれた。

Powell's Books店内

▲2009年ころの店内

 そこで調べたジャズ演奏のギリシャ料理の店〈Opus de Opus〉は、素晴らしい店だった。ボクはこの店も、パウエル・ブックも、すっかり好きになってしまった。

 後年の話だが、〈Opus de Opus〉に予約を入れようと調べてみると、店は閉じていた。しかしパウエル・ブックの方は、日本人が多く住むBeaverton地区や、リバーフロントの目抜き通りにお店を増やし、ポートランド国際空港にも出店を持つようになっていた。前にはなかったウェブストアも充実していた。

 それでもBurnside通りのパウエル・ブックは、いまでも当時のままだ。その頃から、この店は本当にユニークだった。本は7つの色がついた部屋に分かれて陳列されていた。

Powell's Books店内

 書棚を見ると、同じ本なのに値段が違うものがあった。同じ本が20冊くらい並んでいて、本の汚れ方が左から右へとグラデーションしている。つまり、同じ棚で新刊と古書とが併売されていたのだった。

 客はスーパーのカゴみたいなものに、気になる本をどんどん入れていく。同じ本の新しいのと古いのとを入れる客がいる。ところどころに用意された椅子に座って、本を選り分けている客がいる。

Powell's Booksフロア案内

▲これはレッドルームとパープルルームのフロア案内。7つの色は虹色に合わせたのかも知れない。

 オープンなカフェがあり、コーヒーを注文し、べたべたのペイストリーを食べて本を読み選んでいる人がいる。選んだ本をレジで精算し、余った本はそこに置いておけば店員がすべてを戻してくれる。

Powell's Booksカフェ入り口

▲カフェ入り口

 もうなくしてしまったが、もらった店のパンフレットには、米国北西部で最大の本屋と謳ってあったように思う。ぼくは日本に帰って大型書店の知り合いなどに、この店の話をして回ったが、反応は良くなかった。

 たぶん、新刊書店は取次につながっていて、古書には古書の卸マーケットがあり、再販防止制度などの壁もあって、話はわかるが日本では現実的ではないと直感したのだろう。

 後年、日本にもパウエル・ブックのような本屋ができた。でも少し雰囲気が違う。本好きが集まっているのに本を崇めず、文化が香っているのにドーナツの油が匂うような、あんなお店にはまだ出会っていないのだ。

創始者マイケル・パウエルさん

▲この本屋を創始したマイケル・パウエルについて、Powell's Books com.のサイトでは下のように紹介している。上の写真がパウエル氏で、同社サイトからお借りした。

In 1979, Michael Powell left his Chicago Bookstore to join his father in Portland, purchasing the store from him in 1981. Since that time, Powell's has grown into a "semantic superpower." Michael has been at the center of Portland's social, political and artistic growth over the last twenty years. "When we started bringing authors to town, you couldn't get a decent author to visit Portland. Portland's access to ideas, authors and books has grown because Powell's has grown. It's not cause and effect, but it's synergy."

2021/5/1 NozomN

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